タイトル | しかくの勿忘草 |
プレイした機種 | PC Steam |
メーカー |
壱寝/ItineWriting
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満足度 | A(満足。たいていの場合お勧めできる。) |
要点 |
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執筆日 | 2025年4月18日 |
はじめに
Steamにてエンディングコンプまでプレイ。
壱寝氏が手掛けるRPGツクール製探索ホラーゲーム。少年少女が閉鎖空間に囚われ、恐怖の存在に追われ、脱出を目指す中で閉鎖空間にまつわる過去や謎を解き明かしていく…というこの手のジャンルとしてはオーソドックスなゲーム内容になっている。
基本システム
- 見下ろし型マップでキャラクターを操作し、探索。
- アイテムを探したり仕掛けを解いたりといった謎解き要素がある。
- 特定のポイントまで進むと会話イベントによりストーリーが進行。
- 主に登場人物たちの過去の回想シーンによってストーリーが語られる。
- ストーリー中の要所ではツクール製ホラー定番の鬼ごっこイベントが用意されている。
その他
- 湖都、霊湖、記憶体について、以下感想内で少し触れるためネタバレにならない範囲でさっくり紹介。
- 主人公たちが閉じ込められる閉鎖空間世界の名が「湖都」。
- 本作における主人公たちを襲う超常的存在・怪異枠が「霊湖」。
- 超常的存在ではあるが主人公たちを襲わず、意思疎通できる存在が「記憶体」。
良かった点
魅力的なストーリーとキャラクターに惹き込まれる
- メインキャラたちの関係性や考え方の変化が全編を通して丁寧に描かれる。本作はホラーゲームではあるが、一番の見どころはこの点だろう。
- メインキャラ同士の関係性だけでなく、各キャラの複雑な家庭環境までもが事件にまつわるエピソードとして語られる。
- 本作は探索パートと回想パートを交互に繰り返す形でゲームが進行していくが、両パートのボリューム(時間的な意味でも、内容的な意味でも)のバランスがとれているため飽きを感じづらく、スイスイ進められるのもストーリーやキャラの良さの演出に一役買っている。
- 各キャラがこの作品世界で何を考え、どのように生きてきたのか、そして今後どう生きていくのかという点までプレイヤーが感じられるような「生きたキャラ」がしっかりと描かれており、非常に魅力的。
- キャラに愛着を感じやすく感情移入や共感もしやすいので、1つ1つのエピソードにも惹き込まれやすくなっている。
- セリフ回しはややクセがあるものの読みやすく、何よりキャラの感情が伝わりやすいものになっている。好みによる差はありそうだが筆者的には好印象。
- キャラ同士の会話劇はもちろん、妙に人間臭さのある記憶体のセリフも愉快で楽しく読める。
それらを支える世界観設定もよく作り込まれている
- 湖都、霊湖、記憶体の設定はありがちながらこの作品特有の世界観として機能している。
- 単に霊界とか幽霊とか怨霊としないことで、設定に説得力を持たせ没入感を高めているように感じられた。
- 定番の危険な閉鎖空間内にコミュニケーションがとれる存在として記憶体を配置したことで、独特なプレイ感や雰囲気を生み出せている。
- 机や棚などのオブジェクトを調べた時の反応も面白い。
- キャラの関係性やストーリーにまつわる要素は丁寧に描かれている反面、世界観設定やストーリーの理解に直接関係しない点に関してはいい具合にぼかされており、この手のゲームの楽しみの1つである「想像や考察の余地」を作り出している。
ボリュームも十分以上
- 通常クリアで7時間程度、エンディング全回収やらで最終的には10時間くらい遊べる。
- ツクール製探索ホラーとしては十二分なボリュームと言える。上記の通りボリュームに対して中身も伴っている。
不満点
ホラーとしてはやや物足りなさを感じる
- 会話やオブジェクト反応の愉快さ、ストーリーやキャラの良さにかき消され、全体的なホラーとしての恐怖度は薄目。
- ストーリーとキャラが良い分、「進めるのが怖い」よりも「気になるからさっさと進めよう」に心理が大きく傾いてしまうのは良いのやら悪いのやら。
- ツクール製の定番と言えば定番だが、恐怖演出は逃走イベントとジャンプスケア頼りでホラー苦手気味な筆者目線でもややパンチに欠けた。
- 特にジャンプスケア系演出は多用されているので苦手な人は注意。とは言ってもジャンプスケアが大の苦手な筆者が問題なく最後までプレイできる範疇ではある。
- 逃走イベントはストーリー上のものだけで、それ以外で霊湖に襲われる場面はかなり少ない。
- とは言え、逆に言えばジャンプスケアや逃走イベントはあるので雰囲気だけのホラーゲームに比べれば普通に怖いとも。
作り込みの甘さ、荒さが目立つ
- 設定ミスがチラホラ見られ、プレイ中「?」となる。
- もちろんバグやミスに関してはほぼ個人制作である点を考慮して甘めに評価したいところだが、特に終盤のとあるミスは大きく没入度を削ぎ、プレイ体験に支障が出るものだった。
- 霊湖と記憶体に関してはもう少しストーリーに絡ませて描いてくれても良かったように思う。
- なまじストーリー・キャラ・設定が良いだけに気になってしまった。
- 想像や考察の余地を残すにしても、この点はやや投げすぎた節がある。
- 探索パートの謎解き・ギミックは世界観から浮いたものが多い。
- 中には霊湖の特性を活かしたものもある。こういった謎解き・ギミックがもっと増えてくると全体的な完成度・没入度がグッと高まったように思う。
- 逃走イベントの難易度が序盤はやけに高く、逆に終盤は慣れを考慮しても少々簡単すぎて恐怖演出として機能不全気味。
- 上記ホラーとしての物足りなさの一因とも。
- オブジェクトを調べた際の反応はゲームが終盤に近付くにつれ目に見えて減っていく。
- 反応が面白いだけに残念。
- ストーリーが盛り上がる終盤、邪魔にならないようにわざと廃しているとも捉えられる。
- 昨今の基準で考えると、値段に対してグラフィック面が弱いか。
まとめ
ストーリー、キャラ、世界観設定が非常によく練られており、ツクール製探索ホラーの基本スタイルを踏襲しつつも独自の魅力と説得力を生み出している力作。
ツクール製ならではの細かい至らなさはあるものの、特にキャラクター周りの描き方が秀逸で、どのキャラにも愛着がわき、作品世界にグイグイと惹き込んでくれる。筆者のようにキャラクターやストーリー、世界観に惹かれてホラーゲームをプレイするような人に強くオススメしたい。
「こういうのがあるからこの手の探索ホラーはやめられないんだよ」と言いたくなるような、低価格探索ホラーの魅力を十二分に体験させてくれる作品だった。
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